第四章 第一次世界大戦期の戦争

(「近代日本の七つの戦争」の「第一次世界大戦期の戦争」の序文です。実際の書籍の文章は縦書きで、読みの難しいと思われる漢字には、ふりがなをふってあります)

第1節 序

 一次世界大戦は、十九世紀の戦争スタイルで始まった。騎兵が馬にまたがり、歩兵が徒歩で移動する。相手陣地に大砲を撃ち込み、その後、騎兵と歩兵が突撃する。突撃の花形は騎兵だった。突撃のとき、ステッキをつきながら敵陣に向かって行く歩兵隊の将校もいたという。

 だが、戦争は途中からすっかり変わった。戦車、潜水艦、毒ガス、火炎放射器、飛行船、飛行機などの最新兵器がつぎつぎと登場し、もはや、悠々と前進していく騎士道などの通用する戦いではなくなった。第一次世界大戦がその後の二十世紀の戦争スタイルを決定づけたのだ。

 戦争中に各国は有効な兵器を開発するため全エネルギーを傾けた。その結果、驚異的な技術革新が行なわれた。戦争によって技術革新がなされていくというのは皮肉な話だが、人間は窮地に追い込まれれば「火事場の馬鹿力」が出るという証明のようにも思える。そして、この技術革新で生まれた最新兵器のため、これまでの戦争とは比べものにならないほどの犠牲者が出た。第一次世界大戦は史上初めての大量殺戮兵器を使った戦争になった。

 そして、第一次世界大戦は列強が国家の命運をかけて戦う、史上初の本格的な国家間の総力戦でもあった。戦争には兵士だけではなく、国民全体が協力した。戦場もヨーロッパだけでなく、世界中に飛び火した。オスマン = トルコ帝国の支配する中東や、ドイツの植民地であったアジア、アフリカ、太平洋の島々などでも戦闘が行なわれた。

 そして、この大戦争をきっかけとして、幾つもの帝国が消滅した。大戦中に起きたロシア革命でロシア帝国は崩壊、大戦の敗北によりドイツ帝国、オーストリア = ハンガリー帝国も崩壊、また、その後、オスマン = トルコ帝国も滅亡の道をたどることになる。第一次世界大戦後、世界の勢力範囲は激変し、世界地図は大きく塗り替えられることになるのだ。

 バルカン半島のボスニアのサライェヴォで、暗殺団の青年の放った二発の銃声が、世界中の大地を震えさせる大戦争に発展したのだ。

 しかし、いったいなぜ第一次世界大戦は起こったのか? その原因は非常に複雑だといわれているが、どのようなことが要素になっているのだろうか? そして、この戦争により、誰が得をして誰が損をしたのか? この戦争でドイツは徹底的に打ちのめされるわけだが、復讐心に燃えたドイツではその後、どのようなことが起こっていくのか? そして、この戦争は日本とどのような関係があリ、そのとき日本は何をしたのか? 

 この章の前半では、第一次世界大戦のメイン舞台であるヨーロッパの状況をみていき、後半では日本がかかわった戦争と、その当時の日本の行動について考えていきたい。

 第一次世界大戦に乗じて日本のとった行動が後々まで尾を引いて、日中戦争、太平洋戦争へと発展していくのであり、この当時の日本の姿を知ることは、その後の日本を理解する重要な手掛かりにもなるのだ。

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